戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ただ今回の偽物の婚約を皮切りにして――複雑な事情を偏った視点で話せば当然、自社の役員を見る目が変わってしまう。
本当は相手のあるロボット男に嵌まって、もう抜け出せない地点まで来ている。…とは絶対に言わない。
その場から逃げるのは得意でも、人のせいにして生きて来たつもりは毛頭ないから。
但し、どう差し引きしても、本命の朱莉さんのある男とセックスしたのは私。
彼に抱かれたことでさらに想いが増しているのもまた、紛れもない事実。
ロボット男の行いを酷いと捉えられるか、はたまたお金に目がくらんだ私を悪女と捉えられるか…。
判断されても答えの出ない大変な迷路へ、友人を巻き込むほどバカではないから。
テーブル上でゆらりゆらり湯気の立つメインを前に、虚しい笑顔を浮かべてやり過ごしていたが。
「でも…、専務って意外と嫉妬深いよね」
「何に?」
冷淡かつ冷酷で有名な男にはご縁のないフレーズを、臆することなく発した彼女。もちろん現実味のないそれに真顔で見つめ返した。
「またはぐらかす…。あんなに多忙な人が、怜葉に時間を空けるくらいよ?
だいたい加地くんが専務に睨まれた件だって、私には教えてくれなかったしさぁ…。
でも、部署までわざわざ迎えに来たとか、エントランスで見つめ合ってたとか…、私だって色々ウワサと一緒に色々ネタは持ってるのよ?
“ただの地味OLが専務を誑(たぶら)かした”って…、お局や秘書課の派手子が触れ回っているコレは打ち消し中だから」
「ええ、なにソレ!?」
加地くんが喋ったことなど紙切れのように、サーッと舞い上がってしまう驚愕の事実が声を荒げさせた。