戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
リビングで秒針を刻む時計がそんな一進一退の光景を嘲るように、カチコチと規則正しい音を刻んでいた。
「素直ではない貴方に譲歩して、聞き方を変えましょうか。
お酒を飲んで来たようですが、一体どなたと何をして来たのですか?」
意地っ張りな私がだんまりを決めれば、失礼かつ盛大な溜め息を吐き出したロボット男。
引き離そうとはしないクセに、やたらと不機嫌な声色を窺わせるから困りものだ。
「…何でですが」
素直じゃないのは認めるが。何が譲歩するだ――この場に“ホウレンソウ”の意義があるとは思えない。
かつて興味を持つことを面倒と言い切った男が、なにゆえ偽者に探りを入れる必要がある?
「5W1Hはビジネスの基礎でしょう、違いますか?」
「そう言う意味じゃありません」
ちなみに5W1Hというのは和製英語から来る、ビジネスにおける伝達基礎。ホウレンソウと同じ意味でも、何となく形式ぶっているから苦手。
きっとこの男は、私のそう言った部分もお見通しであろう。
ぶっきらぼうに言い返せば、ロボット男が業を煮やしたようで、先ほど以上の溜め息を吐き出してくれた。
「まったく聞き分けのない…、良いですか、怜葉さん。俺は貴方に“遠慮なく頼って下さい”と言った。
すなわちそれを守るには、貴方の事情について知る権利が発生するでしょう?
まして怜葉さんは今、こうして俺へ抱きついて来た――これを打開するのも、」
「あー…、それなら離れます!」
アンタの本職は敏腕弁護士か――と突っ込みたいほど、詭弁に弄する身勝手男の口調に勝てる気がしない。