戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
むしろ私に溜まったフラストレーションを、相手方に向けている気がしてならないし。
この男を称賛する秘書課のボスこと福本さんには、ぜひともこの姿をご覧頂きたいものだ…。
「――ハァ…、分かった。ああこれから向かう」
忌々しいと言いたげに、大きく溜め息を吐き出したロボット男。その通話中もっとも不愉快な声色で、諦めたようにそこで通話を終えた。
その姿を無言で窺っていた私は、仕事中の専務と職務面で接する機会がないに等しい。
そのため、これが彼の本来あるビジネス・モードかもしれないと納得するばかり。
今みたいにシャツのボタンを外して着崩し、泣きついた女を受け入れる温情など一分も見せない。
それゆえ、手厳しく至極有能との貴公子の名に恥じぬ評判をキープしているのだろう…。
そのボタンを素早く留めた後、シルバーのネクタイを締める専務を見ていると、真っ黒な瞳と目が合ってしまった。
昨日のように泣いてしまったこと、そしてものの数分まで熱いキスを交わしていたこと――
それらが脳裏を過ぎり、平静を取り戻した筈の鼓動は再び激しい音に変わってしまう。
「怜葉さんすみません、急用で社に戻ります」
「…え?あ、どうぞどうぞ!」
電話の内容は図れなかったものの、間違いなく急ぎの用件であることくらい私でも明白である。