戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
それでも今は、そんなツッコミを入れている余裕はない。断固阻止することが先決なのだ。
「私の家は、ずっとココなの。…ここしか、もう無いのよ!」
「でしたら――今日から、ホームレスのご身分でも構いませんか?」
なぜ家主の意見をなおざりにされて、いきなりホームレスにならなければならない。
「っ、大家さんと話して…」
「ああ…大家さんは、草津温泉と系列のホテル無料宿泊券をプレゼントしましたら。
今日のうちに、早速ご一家でお出掛けになりましたよ。あと3日ほど戻りませんね」
鼻息荒く立ち上がろうとした私の前で、ピラピラと紙を泳がせた男の発言に愕然とするばかり。
草津温泉にはウチの傘下であるホテル兼、社員が利用する事の出来る保養所のひとつがある。
どうやらこの男は、温泉大好きな大家のオバちゃんに草津の無料券を渡して手なづけたようだ。
だけど私、真面目に働いて毎月家賃は滞りなく払っていたのに。どうして温泉に負けるのよ…。
人の知らないトコロで勝手に退去手続きを完了して、家なき子される日が来るとは夢にも思わなかった。
小さな小さなアパートでも、私が必死に働いて手に入れた唯一の城で安住の地だったもの。