戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ちなみに店名の"mirage"は、フランス語で蜃気楼の意味である。
とにかくこの感情が露見し、彼らに見つかるような真似だけは避けねばと思うばかり。
そう思わせる店名がまた、どこか皮肉めいたものに感じて自嘲する。
だからこそ、無機質な文面を送りつけて来た男はどこまでも、私のちっぽけな自尊心をボロボロにするのが得意らしい。
いつの日かと同様に、ウチの部長へ圧力まがいな発言をかましていたのか。今日もまた、キッチリ定時で部署を追い出されてしまう。
有難迷惑すぎるロボット男の温情によって、今日の仕事による疲労感がドッと増した。
それでも逃げることは出来ず、結局は彼に与えられた洋服や小物類を纏って、18時にオフィスを退社してしまうとは救われない。
まして店の向かいに位置するチェーン展開のカフェで、時間に遅れないようにと時間を潰す今こそ何なのか…?
はぁと溜め息を小さく吐き出せば、チラチラと腕時計ばかりに気を配るのも情けないもの。
彼がエスコート相手に朱莉さんを選んでいる時点で、私は招かざる客でしかないのだから。
ああ想像するだけで息苦しいと、取り巻く虚しさをフルーツ・ミックス・ジュースで流すものの。
問題の待ち合わせ時間まで、あと15分を切ったし――そろそろ目的地へ向かい始めるべき…?