戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
私としてはこういうセルフ感覚のお手軽なお店より、まだ名古屋によくある昔からの喫茶店の方がしっくりくると思う。
むしろ四方八方から送られる、お仕事終わりらしきOLの熱い眼差しに気づかないの?
いや、きっと慣れているから、そんなことにイチイチ構うことが面倒なのかもしれない。
すると綺麗な瞳が不意にこちらへ真っ直ぐ向けられ、思わずドキリとさせられる。
これは間違いなく。綺麗なものと無縁なOLならば、誰しもが同じ反応をすると思う。
ただし私の場合は、先日の迷惑をかけた一件もまた理由のひとつであった。
「今日はひとりなの?」
「…あ、うん――あのさ、この前は…その」
「――何のこと?」
「…、」
小さく口元を緩ませて飄々とする悟くんの表情から、やはり“変わらない”こともあるのだと嬉しく感じた。
こちらが話したくないことだと、その賢すぎる頭でとうに分かっていたのだろう…。
だからこそ私も周りの雑音にかき消されるほどの声で、“ありがとう”と呟くに留めていた。