戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
悟くんは昔から、必要以上に話さないところがあったけど。今はそれに洗練さが加わってスマートな印象を受ける。
「怜葉ちゃん、仕事はどう?」
「うん、…それなりに楽しいかも」
「佳奈子と同じ答えだ…あ、妹は憶えてるよね?」
「もちろん!悟くん、猫可愛がりしてたよねぇ」
「そうかな?」
「うん、自覚ないシスコンだった」
元から饒舌でないうえ、今の落ち着かない心境の私にとって。このなだらかに過ぎる時間がとても穏やかな気分を招いていた。
こうも失礼なことを言えてしまうのは、昔馴染みである以上に彼の作り出した優しい雰囲気ゆえ。
わざと肩を竦めて苦笑するから、なおさら彼へ抱くべき警戒心など薄れてしまっていた。
「あ、でも佳奈子ちゃんは元気?」
「ああ変わりないよ、もうすぐ結婚するかもね」
綺麗な面立ちを崩すことなく頷いた悟くんの妹さんは、私の1歳下で幼少期に何度か遊んだことがある。
その当時で既に黒髪がとても映える整った顔立ちをしていたから、いま間違いなく彼と同様の美しい女性になっているだろう。
少し年の離れた妹さんだから、彼が可愛がっていたのも納得の話――その佳奈子ちゃんに結婚相手がいるとは…。
「えー、本当に?いいなぁ」
「婚約している子がどうして羨ましがるの?」
「…あ、」
さすがというのか。鋭い彼の指摘によって、今度は私の方が肩を竦める番であった。