戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ヤブヘビな状況はさらに自身で悪化させると知った今、はたと気づいたこともあった。
「…そう言えば――えと…あの夜、私がどうなったか知ってるよね…?
なぜだか起きたら、…ロ、あ、ちがう。専務のベッドの上だったんですが、」
あやうく“ロボット男”と言い掛けるほど、まったく平常心とはかけ離れている。
それを得意の苦笑でカバーしつつ、もはや乙女の羞恥は捨て去っていると尋ねてみた。
そう、これこそ肝心な問題だ。悟くんに会場の外で慰めて貰っていたのに、果たしてどこでロボット男の元へワープしたという?――
焦りと緊張感に包まれながら、いつもと同じ柔らかな表情を見せている彼をジッと見つめれば、その口元がフッと緩んだ。
「ああ、それはね…――本人に聞くが一番じゃないかな」
「…え、」
「互いの為だと思うよ」
ニコリと微笑んでそう締めると、再びコーヒー・カップへ口をつけた悟くん。
その最上の笑みは間違いなく、周囲3メートルの女性を惹きつけるには十分だと納得するばかり。
あいにく私にはフェロモンの効力はなかったが、それ以上の口を噤ませるのだからすごい。
――これが幾多の場面で交渉を重ねられる、大企業の重要ポストを担う人々の持つオーラかもしれないと納得だ。
「怜葉ちゃん、そろそろ…」
「…うん、でも――行きたくない…、1人だし、」
チラリ彼が高級腕時計に目を配って促すものだから、ロボット男と朱莉さんが待つ光景が脳内を再占有する。