戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
この日の為に用意したとか何とかの、桃色の振り袖姿の自分に腹が立って来るし。
明らかなるほど、事務的に口元を緩めただけの男を恨めしく睨みつけてやった。
婚約に交渉も何もあるか!ていうか、何だそのロボットスマイルは…!
「そんな顔をなさると、なけなしの可愛さもゼロになりますよ?」
「ふ、ふざけ…」
すると、どうだろう。目の前の堅物オトコといえば、失礼極まりない発言を被せるから。
我慢も限界――イライラ最高潮の私がテーブルを叩きつけようと手を振り上げれば。
「ああ、私の婚約者になる方が暴力的とは困りますね…。
何でしたらアナタが隠したい“コト”、…明日にでも社内メールで発信しますか?」
きっと般若のような可愛さゼロの顔にも、この男は顔色ひとつ変えやしない。
「っ、い、いえ…!」
それどころかサラッと大砲をぶち込んで来るモノだから、こちらが真っ青だ。
「まぁ、今回は宜しいでしょう。
今後はその顔に出やすい性格、どうにかして頂きますかね」
どうやらこの男に全てを指図されるらしい。開始1分で既に拒否したいところだが。
「・・・はい」
横にブンブン振っていた首を、重しがかったように一回だけコクンと縦に振るしかない。
舌打ちしたいのを堪えることが、こんなにも屈辱的だとは思わなかったし。水を引っ掛けてやりたいと感じたのは、ちっぽけな人生において2人目だ。