戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
まして頑固さが売りの私であるから、意地悪くもここで“専務”呼びを付け加えておいた。
そもそも本命の彼女を前にして、私の立場でその他にどう呼べると言うのか?
「私の名は専務ではない、と言うのは――果たして何度目でしょうね」
「…分かりかねます、」
「まったく、」
あからさまに溜め息を吐き出し嫌味をサラリ返して来た男には、私の本心など伝わらなくて当たり前。
この呆れた態度にしても当然であるから、またもや虚しい本当の現実が心を冷たくさせた。
「ふふっ…」
「――笑うんじゃない」
そんな状況を愉快そうに可愛く笑ったのは朱莉さん。隣でピシャリと咎めたロボット男の表情がどことなく穏やかに変わる。
“はいはい”と軽くあしらえてしまうのも、彼女だけに許された“特権”に感じられた。
可愛げのなさを見せる女とよく笑う素直な女性――どちらが男の心を惹くかなど言わずもがな。
もちろん偽者がそんなものを身につけたとしても、彼には要らないポイントだろうけど…。
食前酒のシャンパンを掲げて乾杯をすると、歪な雰囲気の食事が静かにスタートした。
由梨との会食と違い、今日はまったくお酒を楽しめそうになくて。最高級のドンぺリニヨンの味もまったく分からず、形式的にグラスを傾けたに過ぎない。