戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
まして自分の気持ちからも逃げている女には、まったく当て嵌まらないフレーズなのに…。
このコーヒーとショコラの入り混じる絶妙感は、どこか専務の人となりに思えてならない。
スプーンで掬うごとにクリアグラスを透明にしていく様は、ふと気持ちにオサラバしようとする自身の心にも見えた。
――ロボット男を信頼して隣で笑う彼女の未来を絶つなど、…絶対に許されないから。
結局のところ、朱莉さんがなぜ私と会いたがったのかは分からず仕舞いであった。
但し、何も言わない方が効果絶大な場合もある。そう思い知った今日は、いつも以上に口数の少ないロボット男の態度にも安堵した。
そして何より、隣ですかさずフォローをくれる悟くんにどれほど救われただろうか…。
* * *
「専務、今日はご馳走様でした」
「あら怜葉ちゃんは律儀ね――でも、結構美味しかったわ」
「あの料理の腕前で、よく言えるものだな」
「…彗星、いま何か言ったかしら?」
「まあまあ」
私が必死に紡ぎ出したお礼など打ち消すのは、仲睦まじい2人の痴話喧嘩――それが諦めたと決めた心を空虚感に包む。
もし彼らを宥める悟くんがいなければ、この場から走って逃げていただろう。