戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
突然のことに驚きながら紡いだ言葉もまた、か細く情けないものでしかなくて。
それを畳み掛けるように響いた、いつになく冷たい声音でさらに狼狽するばかりの私。
もちろん原因は悟くんでも、はたまた朱莉さんでもなくて。闇夜に同化するほどの真っ黒な瞳を持つ、ロボット男その人だ…。
「な、にが…」
「誰が彼と帰れと言いました?」
悟くんの元へ逃げようとしたものの、小さな痛みを与えられた手首を今度は囚われてしまう。
男の力をまざまざと感じれば、とてもムリヤリ解くなど無駄な足掻きと分かっている。
「…何も指示を受けていません。
…そもそも、専務に仰ぐつもりはございません」
「ほぉ、勝手な人だ」
始めから分かりきっていることを、なぜこの場で尋ねなければならないと苛立つばかり。
さらに惨めな思いをさせて、偽者への優越感なり支配欲を味わいたいのだろうか?
目を合わせずにそっけなく返せば、それも気に入らないと言わんばかりに力が増した。
この可愛げない態度がもう、ただの強がりと伝わらないのは分かっている。
だからこそ――お願いだから、好きだと自覚してしまった専務から離れさせて欲しい…。