戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
それに動揺したのも束の間、大通りへと目を向ける彼に話をすり替えられてしまう。
暫くして止まった一台のタクシーへ乗り込めば、先ほどのような複雑な顔つきは見せなかった彼。
「色々複雑だと思うけど…、事実からは逃げないで欲しいな」
「いえ…大丈夫――もう逃げるのは疲れたんです」
「怜葉ちゃん…、もっと俺を頼ってくれて良いからね?」
「…本当にありがとう、」
まして私にしても、幾許もない兄との再会を果たすことで頭が一杯であった。
十数年の間の空白を埋めるには、互いを知り得る時間が足りなかったのだろう。
バッグからはもう振動も伝わって来なくなり、これで本当に“終わった”と虚しくて。
取りとめのない会話すらさして出来ないまま、無言の時に2人とも身を委ねていた…。
* * *
到着した先は高級料亭として名高い、マーくんの実家のお店。まさか再び来るとは何かの因果だろうか?
苦笑しながら店構えを眺めていると、素早く精算を終えて車外へ促す彼にお礼を告げた。
落ち着いた和の雰囲気を醸し出すそこは今日も、場所柄ふさわしい高級感を漂わせている。