戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ご立派すぎる御影石を見つめて彼と中へ進めば、雄叫びにも似た声が玄関先で迷惑千万に響いた刹那。
――呆れた面持ちの悟くんに見守られながら、例のバカ力でギューっと抱き締められていた。
「ああ姫ぇえええ!もう来てくれないと思ったぁあ」
「…痛いんですけど、」
「こんな可愛すぎる格好で、何で悟なんかとデートしているんだ!?くそ、ずるい、ずるいぞ…!
ああ可愛すぎるー!姫はなんでこんなに」
「…マーくん離して。ていうか煩い、今さらだけど他のお客様の迷惑よ」
「姫に可愛いと言って何が悪い!?
今クレーム付けて来る奴は、こっちから願い下げだ!」
いやいや、待とうか。お客様第一の接客業をする跡取り息子が何を言う?
抱きしめている女が可愛いとは無縁な事実と現実から、いい加減目覚めて欲しいものだ。
未だに彼の目は節穴か盲目に違いない。そして人を離さずに叫ばないで欲しい。
これこそ前回の再現ではないか。そそくさと昔から逃げ帰ってしまったことで、シコリを残して来たと俄かに心配していたのに。
やはりマーくんはマーくんらしい。心配するだけ損だったわ、その時間を返して欲しい。
「はいはい、分かったから。とにかく行くよ」
「う、わ…、やめ、あっ」
抱きしめたまま叫び続けるマーくんに、困り果てていたのを分かっていたのが悟くん。
何やら彼が、マーくんの耳へ息を吹きかけた瞬間。ゆるりと腕が解かれてものの見事脱出に成功した。