戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
「ふっ、相変わらず耳弱いな」
「さ、とる…!」
「…、」
くすくす愉快そうに笑っている悟くんに対し、自分の耳を塞ぎながら顔を真っ赤にしているマーくん。
その声音も一気に弱まり、むしろイヤな熱を帯びているものだから引くしかないわ。
「悟くんって、何でも知ってるよね」
「何それ?」
ようやくマーくんを回収しに来た女将さんと挨拶を交わしたあと。勝手知ったる奥の部屋へと2人で進みながら笑ってしまう。
“まるで神様みたい”だと言って茶化す彼に、“そうだよ”と肯定しておいたのだけど。
「せいぜい神様に見捨てられた、どうしようもない堕天使だね」
遠い目をしながら口にするから、上手い切り返しが見当たらない…。
思えば昔から悟くんには誰もが敵わなかった。力技では及ばない筈の相手でも、絶妙なタイミングで弱点を突いていた。
そしてさっきのように小さく弧を描いて笑うから、呆気に取られながら何も掴めなくなる。
――その綺麗な笑顔の裏にある何かを、決して見せてくれなかった。
「今だってそうだよ――これが怜葉ちゃんのためだと思うのにな…、」
冷たいその瞳の奥に隠されていた真実を知るのは、あと僅かと言うように自嘲笑いを浮かべるから、私はとても言葉が出ない…。