戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
悟くんの言葉の真意は今日も探れず仕舞いであった。それに構える余裕もなく、緊張のあまり口が渇いて声がまともに出せないほど。
深呼吸のほかにあと何がこの場で出来るというのだろうか…。
バクバク早すぎる鼓動は一向に静まりをみせず、そろそろ疲弊し始めてもおかしくない。
私お得意の逃げることが敵わないのだから、真正面から受け止めこの胸騒ぎを早く解決するのがベスト。
目当てのお部屋といえば、上客のみが入室を許される個室。そこは数日前――専務と訪れてお食事をした所であるのは不遇なもの。
…こんな時こそ忘れさせて欲しいのに、どうしても甘える場所もないらしい。
ただ一切の躊躇いを見せない悟くんが部屋の襖を開けた瞬間、時が止まったように呼吸を忘れていた――
4席設けられている中で右手奥の席に座る、あまりに美しい姿勢の人から目が離せない。
グッと喉の奥が痞えた感覚に陥れば、それが恐怖か安堵なのか判断すらつかないのだ。
「怜葉、元気だった?」
ただ一点を凝視してしまう失礼さに気づく余裕さえなくて。
いや、一般的にはそれが必要ない関係だったのだからと自身に言い聞かせた。