戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
さすが血統よきサラブレッドと違わぬ兄に対し、平凡を絵に描いた妹の私。言うなれば、馬車馬と競走馬ほどの差を感じた。
入り口で立ち尽くす私の背中を押したのは、卑屈になると見越していたらしい悟くんの手である。
何となくそのさり気ない気遣いに傷ついた。ああダメだ、彩人兄と居るとすぐに卑屈になるのは変わらない…。
視線の向け先に困った私は悟くんを一瞥する。決心してコクリと頷けば、おずおずと足を動かし下座へそのまま落ち着いた。
それに眉根を寄せて不快感を露わにしたのは、向かいに座っている彩人兄。
その鋭い眼差しに貫かれ心苦しくなるものの、気づかないフリをしてブラウン色のテーブルへと視線を落とした。
「こっちに来ないの?」
「…いえ、ここで結構です。
そちらは私なんかより、悟さんがお掛けになるべきですから」
眼でダメなら言葉で、と言わんばかりに尋ねて来るから、いつまでも席に着こうとしない悟くんを促す。
「じゃあ悪いけどここは俺が――彩人いいよね?」
「そう言い切る前に、座ったくせに」
「怜葉ちゃんのお願いだから」
場を和ませようと茶化して座った彼のお陰で、少しだけ場の空気は和らいでいたけど。
2人のどちらとも目を合わせられない私。間違いなく嫉妬心に似た、浅はかな感情がバレているに違いないと。