戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
その言い方はまるで私が助けを求めることも、こうして会わざるを得ないことも分かっていたと受け取れた。
しかしながら、こちらにしてみれば事態が呑みこむことさえ出来ない。
互いの利潤から始まったノン・シュガーな関係を、私だけが“あの男に騙されている”と形容されたのだから。
それゆえに、どこか悲しげな瞳を見せる兄の言葉の意味を推し量れる訳はない…。
「分かるよね?」
「…、」
ここで冗談とヘラリ笑い飛ばすか、または睨みを利かせて“何が言いたいの”と言えれば、苦しい沈黙には陥らないというのに。
もちろん私にそれだけのボキャブラリーがあれば、真っ先にそうしているのだが。
あいにく失恋直後のうえ、向かい合う相手も悪い――面影を辿ることも難しい相手となれば、致しかないと自身を宥めてみる。
なれば流れに身を任せ、濁りのない色の眼差しに捉えられながら。緊張でごくり喉を鳴らし、彼の出方を待つのがベストと思われた。
「それなら――彼が怜葉に近づいた本当の理由は、教えて貰ってるの?」
ひどく動揺に駆られる静寂の間を打ち払うように、次いで紡がれた問いも新たな動揺を誘うにすぎなかった。
むしろ効力は甚大――ずっと抱いていながら聞けず仕舞いで、投げ掛けることも避けていた疑問がいま私へかけられたのだから…。