戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ストライプシンプルなブルー・シャツ一枚で、このブランドだとウン万円?全身コーデだと夏のボーナスが一気に吹っ飛ぶよ。
靴も超高級ブランドか。こんな華奢なハイヒールで歩けば、歩き慣れていない私の足は確実に浮腫むわ。
オマケにこのバッグはシンプルすぎだ。大学時代から愛用している、可愛い系ブランドがベストなのに。
客観的に見ても趣味はさほど悪くない筈なのだが、どうやらヤツにはお気に召さないスタイルなのか?
そう次々にご立派に文句ばかりを口にするのは、ボサボサ髪にスッピンな可愛らしさゼロの女だけども。
これくらい可愛いものと許されるだろう。それほど昨夜のロボット男の傍若無人な行為は許せない。
自分を擁護しながら洗面台で適当にメイクを済ませると、ブツブツ不平不満を漏らしながらも袖を通した。
「…この洋服、汚したらどうすんのよ」
こういった所を気にすることが出来るのも、私が一般的感覚を養ってこれたからだと強く思いたい。
* * *
「…なに、このマンション」
昨日の夜に苛立ちを抑え、口もつぐんで乗り込んだのは、やはり運転士さん付きの高級車レクサス。
後部座席へ誘導されたことで否応なく隣同士に乗れば、それからの沈黙は苦痛な時間でしか無かった。