戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
おのずと出て来たものは――金入りの良い夜の道へ入るか、おめおめと実家へ戻る、という2つにひとつの選択肢。
ここで後者を取るくらいなら…、と意固地さゆえの答えが呆気なく、夜の道を取らせていた。
何より今さら実家に帰ったところで、蔑んだ眼で厄介払いを受けるのは容易に想像できたし。
もちろん逃げることがクセの私は、それまで実家のニュースを見るのも怖かったほどだから。
それがどうして、東京に暮らしていても近づけずにいながら、のこのこ“助けて欲しい”と言えよう?――となれば残されるのは、饒舌でも酒豪でもない朝方人間の自分と、あまりに縁遠い道しかない。
ただし、都内在住でいても、六本木や歌舞伎町のことを知らないのは致命的――
学生時代に友人がバイトしていた時の話しか知識のない私に、気遣いと華やかさの必要なキャバ嬢が務まるか甚だ疑問であった。
演技ならば幾らでも出来るだろうけども、お酒が入ってからソレを維持出来るか自信はない。
まして聞き側に回り、どちらかといえば人見知りタイプでは会話のボキャブラリーも乏しい。
ひとつ答えを見つければまた問題が重なり、そうして襲う得も言われぬ不安でまさに立ち往生であった。
どうすることが一番ベストなのか…、そう悠長に考える時間などなくても、脳内はひたすら逃げたくて。
もちろん出来ることならば、このまま平穏なOL生活を続けたいと願って止まなかったせい。