戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
それでも、これ以上結論を先延ばしにしても解決など出来る訳もなく。
まして借金について周囲に知られれば…、という恐怖心がついて回った毎日にもう嫌気がさしてもいた。
だからこそ、滞りなく仕事を終えた金曜の夜――大人らしく上品な露出のお洒落をして、歌舞伎町へと向かった。
きっと一度そこへ足を踏み入れてしまえば、付き纏う恐怖心はアッサリ消えてなくなる。
その世界の距離もまたとても近くなるはずと、自身に言い聞かせての行動だった。
何の気なしでいつもの通勤電車を乗り継ぎ、ふらふら目的地へ向かったこと。いま思えば、それこそが間違いだったのだろうか…?
「――緒方さん、だね」
ネオンの煌々としたまったく馴染みのない、煌びやかな夜の賑わいまで、あと少しのところ。まさに足を踏み入れる寸前で呼び止められた。
「え?あ――せっ、専務…!?」
背後で響いたその冷たい声音は、周囲の若いホストの呼び掛けを易くシャットアウトした。
反射的に振り返った先で、その人物が誰かと考えて止まることまた数秒。
その直後に答えが出れば、サーッと青ざめたという訳だ。
入社式で遠目から見てから、時おりオフィス内で他の女子社員に倣って、女子の面倒な付き合いから遠巻きに観賞したことはあった。
その彼と初めて対峙したものの。恐ろしく整った端正な顔に構うより何より、マズい場面を見られたとひどく焦ってしまう。