戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
それは“堂々とそんな恰好でこんな所に居られると、貴方は会社の品位を落としかねない”とか言われて。
週明けに会社へ行けば、彼の指示で席がアッサリなくなっているに違いないと…。
借金返済どころかまだ続けたいOL生活が先に破綻すれば――とまで、パニックながら行きついていた。
社内ではまさしく雲の上の存在である彼に対し、挨拶や笑顔をまともに引き出せず。もはやその時点で、社会人失格だったというのに――
ただし、その時の専務もうわさ通りに、無機質な眼差しでこちらを捉えていたものだから。
あまりに真っ黒な瞳の威圧感に呑まれていた私には、ただ権力ある怖い存在にしか映らなくて。
次々と夜の世界へ吸い込まれる人の往来を阻みながら。沈黙のままに対峙する私たちを嫌な無言の時が包んでいたが、固く閉じていた口を先に開いたのは彼だった。
「…貴方に話があります。
此処ではなんですからね、一緒に来て下さい」
女性への気遣いも見せずに背を向けた専務に苛立ったものの、部下の端くれである私はそれに従う外なくて。
輝かしいネオンと誘いの声に戸惑いながら、ハイヒールで足早に彼のあとを追いかけた。
そう、これがロボット男との初めての会話であって、危機迫る中で最良の選択として舞い降りた日のこと。
――そして話こそが、無表情な専務に寄り添う、偽の婚約者役であったのだ…。