戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
これもロボット男と私の間にあった事を知らない兄に、訳知り顔をされたのだから致し方ない。
十数年も会っていなかった人に今さら兄妹面をされたくない、とは口が裂けても言えないけど――
こちらを真っ直ぐに捉えていた眼差しの変化から、いつの間にか彼を睨みつけていたと気づく。
ただ今さら取り繕ってみても遅すぎる。それこそ此処で笑顔でも浮かべれば、明らかなウソと誰でも分かる。
いつにも増して大人げない私はすっかり忘れていた。口に出来ない分だけ、表情に出てしまうことを…。
そんな変化を読み取る敏感さは、さすがの舞台俳優といったところだろうか。
歌舞伎という特別な世界で生きる兄は、なおさらそれが過敏なのかもしれない。
「怜葉、良いんだ」
「…すみませ、」
「いや、それはコッチの台詞だ。本当にすまない…。俺のことが許せないのは十二分に分かってるから。
…ただね、今さらお前に昔のことを許して貰おうと、都合の良い考えは持ち合わせていないよ。
まして過去への贖いを何かの形で表すことも出来ない。まして言葉を並べ立てれば安くなるからね…。
――これは今だから分かることであって。歳月を経て気づくばかりとは…、人間とは愚かなものだ」
「…ごめん、なさい」
自ら昔に触れた彩人兄は自嘲笑いを浮かべたと見せる裏で、その心が泣いているように私には映った。