戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


だからこそ私の先ほど取った態度は子供染みていた、と感じて潔く頭を下げようとしたところ。


「いや、怜葉は何も悪くない。
…ごめん、ずっと苦しませて、ごめん…」

「あ、彩人にぃ…っ」


素早く手と言葉で牽制し、昔からは想像出来ないほどアッサリ謝ったのは彼の方。


情けなくもそれに縋りたいと、かつての懐かしい呼び名を口にしながら小さく頭を振った。



やり直すとかあの頃へと立ち戻るには、あまりにも遅すぎる時の経過が互いの間にはある。


許す・許さないの次元でない話が、紛れもなくトラウマとして今も息衝いているから。


それでも彼の眼差しがこの胸を熱くしたことで、昔を恨むばかりだった負の感情は薄れてゆく気もした。



どんなに苦しいこともいつの日か、時間が心を優しく宥めてくれる。そして解決してくれるはずだよ――


おじいちゃんやおばあちゃんの愛情に溢れた、かの教えの意味が此処でひとつ紐解けた気がする。



ずっと自分が苦しんで来た年月だけ、兄もまた同じように苛まれていたのだと知れて…。


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