戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
まして途轍もない重圧にひとりで耐え、苦難に立ち向かって来たことはとても想像を絶する。
私が祖父たちに一般人として育てて頂いていた期間。兄は甲斐家のただ一人の跡取り息子として過ごして来たのだから。
その彩人兄からすれば逃げた妹は、身勝手なワガママで迷惑をかけた存在になってもおかしくない。
ひどく自分本位だった考えも、大人になった今だからようやく改められると思う。
彼に心から許して貰えるかは分からないし、本当の意味での和解が出来るか分からないけど…。
ようやく笑顔を向けられると思えた、まさにその瞬間。彼の表情が険しいものへと変化する。
「…俺が今日やって来たのはね、昔の罪悪感からじゃない。
だけど、血の繋がった者として…、いや兄として、どうしても伝えたいことがあるんだ。
これから言うことはすべて事実だ、…と言っても、俺の話をすぐに信じられる訳なんかないと思うから。
だから、ここで嘘を吐かない証明に怜葉が信頼のおける悟に、今日は…。
いや、これまでもずっと様子を探って貰っていたんだ」
「…そ、れって、」
「ごめんね?そういう訳なんだ」
彩人兄の発言に釈然としないでいる私を見やると、今まで口を閉ざしていた悟くんはそう付け加えた。