戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
重苦しい空気の中ようやく車が停止したのは、私が冒頭で冷めた一言を発した豪華マンションという訳だ。
真夜中に足を踏み入れた頃合いも構わず、キラキラと明るすぎるほどの都会の一等地。
そこへ悠然と降り立ち、ようやくコチラに目を向けた男の態度にまたイライラしたけど…。
「ここは私が所有するマンションのひとつです」
「それが何ですか」
いちいち驚かないのは、無表情なロボット男が専務でいて、想像もつかないセレブであるからだ。
「どうやら気の短い貴方には、話すよりも見せた方が早いですね」
「ええ。短気なので、周りクドイのは大嫌いです」
「フッ…では、行きましょうか」
そのイヤミにも一切動じず先を行く男の態度に、小さく舌打ちをしながらあとをついて行った。
コンシェルジュの出迎えも当然といった様子で、ごくごく自然と最上階を目指したロボット男に呆れるばかりだが。
それは序章にすぎず、ドアの先に広がった異次元の光景にクラクラと眩暈を感じたのが数時間前だ…。
“今からココに住んで頂きます”
詳しい説明も無しでその一言のみに置き去りにされれば、暫くして業者さんが手際良く荷物を運んで来てくれた。
名の知れた高級ホテルよりも豪華すぎる内装に、落ち着ける居場所はいっさい無くなってしまった私。
かたやロボット男は役員らしくご多忙のようで、別にどうでも良いがソレきり連絡も寄越さない。