戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
なぜ謝られなければならないのか、と尋ねたいものの。
綺麗と評するに等しい顔をした、2人の固い表情に何も言えない。…それでも、本当は分かっていた。
話のこの先が分からずとも、彼らが専務はやめろと言いたいことは明白だから。
ここまで来て逃げるのでは解決しない、と改めて姿勢を正した。そして息をひとつ吐き、芯の強い彩人兄を見据えるのみ。
「高階くん…――いや、高階 彗星と今すぐに婚約解消して欲しい」
「ど、どうして…」
睨み合いの中まさか1球目から、ど真ん中で剛速ストレートがやって来るとは想像していなかった。
「もちろん、妹の恋愛に口を挟むほど野暮じゃない。俺だって、オマエに言えるほどのことはして来ていないからね…。
ただ、彼の場合は別だ-―すべてを知ったうえで、それでも偽の婚約者をやっていたのなら仕方ないが、…想像したとおり違っていたからね…。
さっき怜葉さ…、なぜ彼が婚約相手として、自社に勤める“OLの怜葉”に白羽の矢を立てたのか知らなかったよね?」
「…う、うん」
自嘲するように乾いた笑いをした彩人兄に対し、ビクビクしながら頷いてしまうのも無理はないだろう。
「――だからこそ、自分のことも彼のことも許せない。
また自分だけが悲観して…、勝手にお前を巻き込んで傷つけて…、申し訳ない」
「ど、どういう…こと?あの、さっきから、話が見えない」
あまりに抽象的すぎて、とても掴みどころのない話にただ狼狽するばかり。
それでも私の中で働いたイヤな予感が、あとすぐで現実にすり替わりそうだ。