戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
いつものようにヘラリと上手く笑えずにいる私を、今までになく苦しげに彩人兄が窺って来た。
どうしてだろうか?その真っ直ぐに捉えて離さない瞳が、ひとえに逃げたくて堪らなくさせるのは…。
「高階くんがオマエを婚約者に仕立てたのは、すべて朱莉…彼女のためにしたことだ」
「・・・え、」
緊張の糸をプツリと断つように、彩人兄の形のよい唇が紡ぎ出したのは、ロボット男の本命である朱莉さんの名前。
あまりに想像とかけ離れた、それの示すモノがますます分からなくなった。
首を傾げてその答えを探ろうとした私を制し、ふぅと小さく深呼吸を落とす彩人兄。
その整った面持ちは複雑すぎて、ますますそれが動揺を誘っていたけど…。
「そうか…、やっぱり知らなかったのか――
朱莉は最近まで俺と付き合っていた。…と言ってもね、別れたのはもう1年近く前になるかな、」
「え、えと…」
どういうこと、とさえ簡単に紡げない。
徐々に明るみに出てくる事実が衝撃的で、とてもアッサリと言葉を失わせてしまうから。