戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


たどたどしい言葉の切れ端からは、みっともない動揺が見え隠れしているに違いない。


するとそんな私を、“迷子にならないよう縋りつく子供みたいだ”、と言って小さく笑う兄の発言で少し笑えた。



「簡単になってしまうけど、許してくれ――その彼女…朱莉が高階グループの令嬢とは知っているよね?

俺と彼女が知り合ったのは1年半以上前…、通ってた大学の共通の友人を介して仲良くなったんだ。

何というのか――とにかく感情に素直な子で…、周りに居ない明朗快活な明るいタイプだったな…。
目が離せない理由に納得した時にはもう、不思議なほどごく自然に付き合い始めていたよ。

ああ見えて彼女は、お嬢様らしからぬ奔放な性格をしてる子だったな…。

俺の昔の不誠実さゆえに、火遊び問題が挙がった時があってね?“相手に誠意を見せるまで会わない”って鳩尾にパンチくらってさ…。

本当に相手の子に謝罪して和解するまで、朱莉の方からは一切連絡して来なかったよ――今だからいえるけど…、本当に男は情けないものだ。

強気な性格だけど相手の気持ちを考える優しい朱莉に、その時は自分の行いを余計に恥じることになったけど。

それでも俺のことを見捨てずにいてくれた彼女が愛しくて…、俺には一生この子だけだと強く思わされたよ。

…結婚するなら…、いや生涯共にするのは彼女しかいない、と真剣に将来を考えていたのは本当だから。

明るくて聡明なうえ、とかく立ち振る舞いや容姿の美しい彼女のことは、甲斐家としてもぜひ結婚相手にと望んでいたからね」


何も知らない私が分かりやすいように、と順を追って手短に話してくれているけども。


遠くを見るように庭へ眼を向けてしまった彩人兄の声色は、段々と低さを増していた。


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