戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
思案を瞬時に絶ち切らせる彩人兄の声音が静かに響き、一気に顔を上げた私はその彼へ照準を合わせた。
「実を言うとね…、怜葉の婚約話が甲斐家に入った時にさ。
まあ気分を悪くするだろうけど、…父から指示されてもいたんだ――すべての経緯と目的は何か今すぐ調べろとね…。
もちろんプライベートを暴く問題だから良心は痛んだけど…、おばあさまの話では埒が明かなくてね?
悪いけどその時点で俺が依頼して、それまでの素行調査をさせて貰ったんだ。
なあ怜葉…。俺が家族面をして言える立場じゃないのは、重々承知しているが――
でも、どうして困った時くらい言ってくれなかったんだ…?あんな金くらい、俺が十分…」
「ひどい…よ、」
淡々と紡がれた新たなこと、それは最も忌み嫌うフレーズである“父”の差し金だった事実。
――見捨てた娘へ今さらすぎる干渉を働いた挙句、プライベートを暴かれた事実に苛立ちが募るばかり。
「そう言われて当然の仕打ちをオマエにした、と承知しているから、俺はすべて話そうとしているんだ。
それに俺がこんなに引き止めるのは…ただ、“高階 彗星”の呪縛から解いてあげたいからで、」
「な、にが…」
彩人兄はすべてをいさぎよく肯定し、睨みを利かせる私を諭すような口振りでロボット男の名を出した。
「彼はただオマエを通じて、俺に復讐したにすぎないからね」
「…え、」
ようやく信じられると思えた好きな人には、確かに本命の婚約者がいる――それも兄と嘗(かつ)て結婚寸前だった女性。
この事実は衝撃的であるが、なぜ兄はここまで彼を酷評するのだろう?
「痛いところをつくとは…まったく、外見以上の冷淡さだ」
「ち、がう…!」
冷たい色の眼差しに怯みそうになりながらも、それは間違いだと否定したい。
そもそもロボット男との始まりは、互いに“利用し合う”ことを誓ったのだから。