戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
何より偽物の関係であったとしても、彼は私に相応の優しさも与えてくれた。
不用意な感情を挟んだこちらが悪くて、彼の態度はすべて誠実なものだったと今なら言える。
たとえお金で成り立っていたノン・シュガーな関係だとしても。話を持ち掛けたロボット男を否定されるのは心外だった。
再び彩人兄を睨みつけたが、その瞳が指しているモノがこちらの意と違う。そんな気がして、中途半端に庇うことしか出来ない。
「ごめんな…俺のせいで-―彼は朱莉のために、怜葉を利用したのに」
「…ど、どういう、」
まるで覚悟を決めたように口をキュッと結んだ兄。真剣な表情と対象的な声音を漏らすから、なおの動揺に駆られるばかり。
「朱莉だよ」
「…あ、かりさん?」
「ああ-―彼女が自殺未遂…したのも知らないよな?」
「え・・・」
「本当だよ。…俺との婚約破棄をした直後に、朱莉は実家で自殺未遂を起こしたんだ。
その少し前から、眠れないと訴えていたらしく、処方して貰っていた睡眠薬を大量に飲んでね…。
家政婦さんが発見してすぐに救急搬送された時に、元・婚約者だった俺の方へも連絡が入ったんだ。
本当に幸いなことにね、発見が早かったから…、胃の洗浄をするだけで命に別条はなかったんだけど…」
「う、そ…」