戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


“信じられない”という感情が言葉として漏れ出ていたが、兄はフルフルと頭を一度振るのみ。



「そこで彼…、彗星くん、と言って良いのかな――彼とはね、朱莉が運ばれた病院で初めて会ったんだ。

今でもよく覚えているよ――“今さらよく平然とお見えになりましたね”って…。
彼女の病室のドアを塞いでいた、彗星くんの鋭い目は…多分、一生忘れられないな…。

それでも必死に頼み込んで、ようやく病室に入るのだけは許されたけど…。
酸素マスクをつけて、点滴の管にも繋がれて…、真っ青な顔色で眠っていた朱莉の様子にとにかく申し訳ないと思った。

何より彼女のベッド脇に椅子へ戻った彗星くんが、とにかく心配そうに付き添う姿に情けなくなったよ。
色々と知り得ていたはずの彼女に、俺はどれほど身勝手に追い詰めたんだろうとね…。

――フラれた男が未練がましく駆けつけるべきじゃなかったと、結局は逃げるように部屋を出て行った。
…彼に言われた言葉の意味も、そういうことなんだと――勝手にひとり合点し、諦める外なかったんだ」

言葉を一度止めた彩人兄の表情は冴えないものへ変化しており、それに構うことなく悟くんの方へ静かに眼を向けた。



「なあ悟…、本当に結果論なんてものがバカバカしいと、この時ようやく感じたから。今も女々しく引き摺っているんだよ…。

あの時の目には敵わないってね――彼が好きなのは紛れもなく朱莉…そして、彼女を追い詰めた男なんてさ。
あまりに陳腐な試合すぎて、勝敗はすでに目に見えているだろう?」


「――それは分からなかったんじゃない?」


「いや…。ああそうか、俺に挑む勇気がなかっただけか、」

「な、なんで…、」


“とんでもない臆病者だ”と言って、悲しい瞳で小さく自嘲を浮かべる彩人兄。


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