戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
静かに彼を捉える悟くんの言葉を測る余裕もなく、私はただ目を見開いてポツリ呟くだけ。
「嘘じゃないよ。紛れもない事実だから」
「さ、とるくん…」
「どれもが逃げようのない現実だからね」
隣から掛けられた冷静な声音は、やけに虚しく鼓膜まで届いた。それでも身体は事実の酷さからか、小さく震えていた。
冷たく聞こえたのはきっと、それが間違えないようのない事実だと証しているのであり。
節々で言葉を継ぐ悟くんの表情は真剣すぎるから、私の脳内は至るところでパニックを起こしていた。
朱莉さんとロボット男は傍目からも、ただならぬ関係であるとは感じていた。
今から思えば雰囲気から、つよい絆を示していたというのに――見知らぬフリをしていただけか。
仲睦まじい2人の姿が脳裏に浮かべば、涙腺が一気に崩壊してボロボロと大粒の涙が零れてしまう。
あまりの性急な現象に俯くことも出来ず、その涙を甘んじて受け入れる外ない。
失恋の事実からくる悲しさなのか、彼女の起こした自殺未遂に対してのショックからか分からない。
それほどキリキリした心の痛みと息苦しさはかつてなく、揺らぐ視界をそっと伏せて無言を貫くことを選んだ。