戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
彩人兄から今まで聞かされていた“彼が愛している人”の悲しい事実に、いったい何を感じているのだろう?
――また自分のことばかり考えて、つくづく嫌な女だと自身を詰るしかない。さらには諦めの悪さに愚弄するばかりだ。
するとボロボロ涙を零していた朱莉さんが綺麗な顔を崩して、苦しみに満ちた表情を彩人兄へと向けた。
「や、っぱり、今さら…お、そぃ…。あっ、たし…か、えるっ」
「朱莉、ちょっと待て、」
「は、なし…て!」
「離さない。…ごめん、諦め悪いのは分かってる。けど、話が終わっていない」
小さな背を向けた彼女の手を慌てて取ると、先ほどより強みの増した声色が室内に不安の色を乗せて響く。
懇願するように朱莉さんを見つめる、兄の表情からも分かる通りに。ここで彼女のことを止めなければきっと、2人の道は終わってしまうだろう。
「っ、やだ…!」
「朱莉…、頼む。待ってくれ、俺は…」
「も、う、もう…、いい――あや、と…だって、イヤで…」
「――素直になる、と言ったのは誰だった?」
「…す、いせ…っ」
兄の想いを頑として聞き入れまい、と頭を振って泣き叫んでいた彼女――間を割って響いた、冷たいその声音にはパッと顔を上げた。