戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


美人は泣いていても綺麗だとばかり思っていたけど、今日の様子は以前のパーティの面持ちとは違う。


大きな瞳から零れ落ちる涙にしても、嗚咽交じりにの声にしても然り。朱莉さんの見せる表情のどれもが真剣だ。



これでは誰がどう見ていても分かってしまう。それほど朱莉さんは未だ、彩人兄のことを愛していると――



すると言い合いを止めたロボット男は、狼狽気味だった兄にまず彼女の手を離すよう促す。


それに従ってそっと力が解かれたのを見届ければ、艶やかで真っ黒な瞳を泣きじゃくる彼女の方へと向けた。


「もう大丈夫、と言ったのは真っ赤な嘘か?」

「ちがっ、」


「――それならどうして、また逃げようとする?
自分の気持ちを伝えて逃げたとしても、これでオマエが立ち直れるとは到底思えない。
相手の気持ちを聞かないまま逃げても、それでは新たな後悔が付き纏うだけだ――現にそうじゃないのか?」

不快感極まりない様相の朱莉さんを窘め、冷や水を浴びせる様に追い詰めた。


毅然と態度だからこそ、男の放った言葉は私にもグサリと突き刺さる。…あまりに惨い言葉であり、事実であるから心が痛むのだろう。


そう。東京から名古屋へ逃げていた私にも当て嵌まる話であり、まさに彼の言う通りであったから…。



何よりロボット男は一体、何がしたいのか?傷ついた彼女を宥めて奪うには、今が絶好のチャンスであるのにオカシイ。


なぜ大切な彼女にまで冷静な眼差しを向け、敢えてつき離しているのか…。まして以前、彼女を傷つけた相手の元へわざわざ――


< 362 / 400 >

この作品をシェア

pagetop