戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
取り巻く疑問符に耐えきれず、チラチラロボット男の横顔を見ていた刹那。
わずかに一瞬、チラリとこちらへ視線を移した彼と目が合い、自分でも驚くほど心臓が大きく跳ねた。
そしてすぐに逸れた視線に悲しさを感じつつ横を見れば、今度は悟くんと目が合うとは苦笑する外ない。
どれほど胸に痛みを感じても、所詮はこれが現実――専務が真剣に取り合うのは、相手を思い遣れる美しい女性なのだから。
「いいか、朱莉が“あれほど”のことをした理由は、それだけ真剣だったからだろう?
此処まで来てまた逃げれば、自身の過去も否定するだけだ。それでも良いのか?」
「に、げてな…っ」
「いや、逃げてる」
「ちが…っ」
「違わない」
2人の温度差ある会話ではっきり示されなかった件は間違いなく、彼女が起こした自殺未遂だと分かった。
そして彩人兄から聞かされた時に感じたちいさな疑念が、徐々に真実と繋がるたびに感じるのは。
得も言われぬ思いと切なさがさらに膨らみ、なぜこの男を好きになったのかという根本的なものである。