戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
こうしている間も、彼の腕を解くこともせず、まして前へ踏み出そうともせず。何という自分勝手な人間だろう…。
「――そう思うなら、人の話を聞いて下さい」
「そっ、そうやって心を読まないで下さい!」
「貴方の考えほど短絡的なものはありませんね。
言わせて貰えば、手に取るように分かる思考回路ですから」
「へー…、ああそうですか、そうですね。
それは馬鹿な女で失礼いたしました専務!」
どうにも止まらずにいた、みっともない涙がピタリと静まりを見せたのは。間違いなくロボット男のせい。
この男はいつだって私がセンチメンタルな気分に陥ると、いつも心を読んでバッサリ断ち切るからである。
しかしながら、あまりの言われようも聞き捨てならない。
言われっ放しも癪だからと、毎回のごとく“専務”と呼んであまりに小さな反撃をしておいた。
「誰がそう呼べと?」
「専務は専務ですよね」
「誰がそんなこと聞きますか、馬鹿馬鹿しい」
「…どうぞ勝手にして下さい」
「あいにく、怜葉さんのように暇はありませんがね」
「えーえー、しがないOLに暇が無い方が変だと思いませんか?」
「フッ…、ようやくご自分で認めましたか」
「…、」
しまった…、誘導訊問に引っ掛かったではないか。
結局はこうして、私が白旗を上げる羽目となるのだから納得がいかない。まったくムカつくわ、早く離れろ身勝手ロボット男が…!