戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
その仲睦まじい光景によって、自然と破顔していたのは言うまでもなく。
誰の目から見ても、2人の表情が至極柔らかいものだと窺えて嬉しくなる。
今までの私ならば、頑ななまでにずっと恨む対象でいて、一生会うことも許すことないと考えていたのだから不思議なもの。
こう考えられるようになれたのは、きっと未だに私を優しく抱き締める男のせいに違いない…。
「本当に貴方はマイペースですね」
「…そう思うなら離れて下さい」
2人の急速な進展度合いを微笑ましく見つめていたところ。頭上から溜め息とともに降って来た言葉は嫌味なほど冷静だ。
「嫌です」
「…私も、」
「もう嫌とは言わせませんよ」
「…、」
少しばかり言い淀んだのを見逃さないあたりは、さすがのロボット男。私の口が開くより早く、何時になく冷静な声で遮られてしまう。
仕方なく押し黙ったものの、内心では素晴らしく悔しさ満点である。すると暫くして、キュッと回されていた腕の力がふと解かれた。
突然の脱力感に襲われ、反射的に振り返ってしまった私はまんまと彼の策略に嵌まった気がする。
そうでなければ、目の前の真っ黒な瞳が愉快そうに映る訳がない。まして先ほど以上に、ドキドキと胸の鼓動も高鳴らないもの…。
「怜葉さん、行きますよ」
「・・・はい、」
静止していた時をバッサリ断ち切るお誘いにようやく頷いたものの、そんなにすぐ意地っ張りな面は捨てられない。
それに差し出された手を振りほどかずに、キュッと掴んでしまうのだから。