戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ひっそり静まっている駐車場内。2つの靴音を小気味よく響かせながら進んだ先にある、エレベーターのボタンを押せば到着音が直ぐに響いた。
ドアが開きながら特有のゆるい間接照明が駐車場へとさす中。
それまで沈黙を貫いていた専務がふと、こちらへ向き直って端正な顔を向けて来る。
「貴方を泣かせてばかりですね」
「…ちがっ、…ます、」
そこで我に返ったのは私の方――止めたはずの涙がまた流れていたから、これを今すぐに止めなければならないのに。
何事もなかったようにすることが出来ない、ジレンマだけが代わりに心を襲うのだ。
乗り込まない私たちに業を煮やしたエレベーターの扉が閉まりかけ、ひとまず乗り込んだものの沈黙が息苦しさをも連れて来た。
これまで私は、いかに物事からスルりと逃げ、都合良く避けて来たのかが今になって分かる。
大人になってようやく理解したうえ、それを教えてくれた相手を愛しく思えば、惨めな気分に陥るのもなおさら。