戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
そんな車内に意識を置くよりも、一刻も早く街並みを覚えたいとキョロキョロ辺りを注視すれば。
ぽかぽか暖かな日差しを浴び、移ろいゆく景色に見覚えがありすぎるから我が目を疑ってしまう。
これって私の勘違いじゃなければ…いや、間違いなく“目的地と目と鼻の先”よね…?
そう結論を出すよりも早く、私たちを乗せた高級車レクサスは、徐々に速度を落としてビルの一角へと吸い込まれてゆく。
「良かったですね。今後は寝坊し放題ですよ」
唖然としていた刹那、高速で手を動かしていたロボット男が、ピタリとその手を止めて嫌味を放った。
「っ、しませんよ!」
「もう少し、おしとやかにお願いします」
「・・・」
ああ、すこぶる悔しい。自分で腹を立たせるような発言をしておいて、何という自己中心的なのだろう?
その後運転士さんによって開かれたドアより車外へ出れば、直ぐに注目されるのはロボット男のせい。
この人を惹きつける絶対的なオーラは、持って生まれた素質から来るものだと知っている。
ううん、ちがう――私がどんなに望んで、どんなに頑張ってみても、手に入れられなかったものだ…。