戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ますます重い溜め息が生まれ行く最中。はたと気づいたところで、やけに近い頭上から、クツクツ小さく笑う声が届いた。
「なんで笑うんですか、」
「貴方は本当に、嘘が吐けないなと思って」
「えーえー、そうですね」
パニック加減をさながら愉快そうに窺われると、意地を張る気さえ失せてあとは脱力感が襲うのみ。
ゆらりゆらり揺れる中で諦めているのは、悔しいけどここが心地良いせいだ――
弁明の余地ゼロでこの状況に屈すと、彼ご所望のとおり目の前に憚る部屋の鍵をバッグから取り出す。
とはいえ、重い私を抱えたままで屈むロボット男は、やはり思考回路が一般人とはかなりズレている。
現に開けるのに手間取るくらいなら。到着した時点で、あらかじめ私を地上へ降ろして欲しかったものだ。
そして彼はドアの向こう側の大理石で艶々な玄関にて靴を脱いだものの、どういう訳か私はその解放感が味わえず。
新作のミュウミュウのパンプスを履いていることなど構わず、スタスタ軽快な足取りでリビング目指して進んで行く。
「あの、靴、脱いでな…」
「細かいところを気にしないで下さい」
いやいや、ちょっと待とうか。玄関で靴を脱ぎたいという希望のドコが細かいの?
怨念を込めてギロリと睨んでみるが。それも華麗にスルーされて、そのまま目的地まで一直線に連行の様相だ。