戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


日本的マナーを冒涜した発言に苛立ちつつも、この状態で暴れることは身の危険を感じてしまう。


そしてムーディな間接照明に彩られたリビングへ到着し、ホッとするのは当然だ。


広々とした空間の中でも、手近なダイニングテーブルの椅子に落ち着けるだろうと考えていた。


しかしながら、懲りない私はまたもやこの勝手な男を見縊っていたと思い知る…。


予想地点はあっさり通り過ぎた挙句。彼に抱き上げられたまま、高級メーカーの革張りソファに沈む音が響く。


海外製らしい大きさのブラウン色レザー・ソファは、2人分の負荷が一点へと集中したため、ギシリと重さを主張するように音を立てる。



いやいや、赤ちゃんじゃあるまいし。どうしてイイ大人が、こう横抱きにされなければならない?



「…何なんですか、これ」

「何がですか」

新たな火種を生むだけだと、この不利な体勢でもつとめて平常心で尋ねてみたものの。


これが正しいと言わんばかりの飄々とした声に、とうとう頭の中で何かが切れる音が聞こえた。



「ふっ、ざけないでよ!」

「貴方が悪いんです」


「はぁああ!?」

あたかも火に油を注ぐような口振りで、責任転嫁されては納得出来る筈もない。


平等とはほど遠い体勢に甘んじて、下手に出た私の方が全面的に悪いわけ…?



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