戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
嫌味を返す気がすっかり失せているけど。毎回のことながら、真意を尋ねず過ぎた私こそ素直ではない。
「家に行った時、気づきました?」
「…なにに、」
話が逸れたことで俄かに安堵しつつも、すり替わったお尋ねの意味が分からず首を傾げた。
その計り知れない真意を探りたいと、おそるおそる真っ黒な瞳を見つめることにする。
「俺が父を毛嫌いしていることです」
「え、と…うん、何となく、ですけどね…。
でも、社内ではとても親子仲が良いとか、…有名な話ですよ?」
「でしょうね――取り繕いなど易いものだ」
たどたどしく本音を返せば、当然だと言わんばかりに幾度か頷いたロボット男に困惑する。
そして自嘲を浮かべた専務と、先日お会いした社長の親子関係の良さは有名な話である。
社内はもとより、株主総会においても2人が共に壇上へ立つと、盛大な拍手が湧くほどのカリスマ性を備えた親子。
地位も名誉も世間的に認められている高階家。その仲睦まじい姿しか知らなかったから、正直アノ光景には驚いた。
それは会社のトップと初めて接したあの日――その威圧感で私は、見事に押されていたけど。
何より驚いたのは、社長が専務を見た時の眼差しに、実の息子へ向ける温かみを感じられなかったことだ。