戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ここで感情が先立つほど幼い子供でないとしても。普通のOLもとい一端の社員が聞くには、衝撃的な話で反応に困ったのは事実。
そんな心情を話す前から察していたのか。言葉に詰まっていれば、大きな手でそっと片頬をゆるい温度が支配する。
まるで包み込むようでいて、なぞるようにその動きが身体の中を熱くするから目を合わせられない。
「…という訳で、あの人の目的はただひとつ――
のちに叔父から俺へ頭取を交代させたあと、さらに自社との結びつきを強くさせること。
それをすれば融資の取りつけも容易くなりますし、…いずれは株を買い占めて筆頭株主になることも目論んでいたでしょうね。
当社が大企業特有の健全状況であるがため、あの人は以前から余暇を持て余していたでしょうし、…今度は銀行経営に触手を示したとも俺は踏んでいます。
まあ一方では、高階一族の中で賢者であると周囲に見せつけ、自身の力を誇示したかったのでしょうね…。
つまるところ、父は仕事にしか生き甲斐を見出せない人となりですから。――という訳で、これがすべての全容です。
一見すると複雑でも、いざ紐を解いてみれば自尊心と虚栄心から来る、金と欲にまみれた負の固まりに支配された男の仕出かした話。
まったく以ってクダラナイ物へと、俺たちは巻き込まれ掛けていたんですよ」
「…そう、なんですか、」
時おりこちらの理解度合いを窺いながら話す専務のお陰で、おおまかに話の筋が分かって頷いてみせる。
「もちろん、俺と朱莉は仲こそ良いですが、それはあくまで身内として――
一時期は食事すらまともに取れず、部屋に閉じこもっては泣いていたので…。
まあ当然でしょうが…、彼女の両親は一人娘を案じるがゆえ正常な判断力を欠き、父の言葉にそそのかされてしまったようです。
ただ俺は私情でブレませんからね…、馬鹿馬鹿しい話を持ち掛けて来た時点で、その横柄ぶりに我慢の度を越しましただけのこと」
「…でも、専務は朱莉さんが、」
「まだ言いますか」
“ずっと好きだったじゃないですか”と言い掛けたところへ、ギロリと鋭く睨まれ私は寸前で言葉を呑んだ。