戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
「少なからず…、貴方を利用したのは事実ですから」
点と線を繋げようとしていた最中。このあと雹(ひょう)でも降りそうな気がする、彼の言葉にふるふると頭を振った。
「…いえ、そんなことありません。
…もともと私の方が、困っていたのを…せ、専務に助けて貰ったんですから…。
だ、だから、もう良いです…、へっ、平気…でっ」
かつて歌舞伎一門の娘として育てられた頃に備わった、なけなしの演技で微笑むはずだったのに。
それが何の役にも立たなかったうえ、ポロリ零れ落ちた涙が言葉さえも詰まらせた。
結局のところ…、仲違いしていた私たち兄妹が専務に救って頂いたという真実に触れただけ。
ロボット男とか身勝手とか散々に詰ったうえ、横柄な態度を取っていたのは私の方だ。
気持ちを伝えたいという次元へ向かう前に。今までの態度を省みて、そのどれもが悔いるものだと泣けて来た。
むしろ涙を流す立場にない…。彼の優しさに触れてならない女だというのに、まったく最低すぎる。
「どうして泣くんです?」
それでもなお、頬を撫でてくれる理由が分からない。だけど、自分から振りほどける訳もない。
すると真っ黒な瞳で真っ直ぐに捉えられれば、ドキリと鼓動が大きく跳ねてしまう。