戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
ぽろぽろ零れ落ちる涙が拭われたのはすぐあと。そしてどこか穏やかに微笑んでくれたのはその直後。
ああ、どうしても私はダメらしい。口では身勝手などと言いながら、いつだってこのゆるい温度に頼っていたのだから、…やっぱり離れたくない。
「怜葉さんの平気は、“助けて”の裏返しだと分かってますよ」
「っ…」
「探偵や興信所を使って貴方のことを調べて知っていくうちに…、本当にどうしてなのか――自分でも不思議なほど、貴方に興味を持っていました。
作り笑いがあまりに下手なクセに、すべて笑って誤魔化して。その顔立ちと裏腹に、物事はハッキリと言うか曖昧にして逃げるかのどちらか。
また口ではテキトーだと言いながらも実は、誰より仕事熱心に取り組むあまり私生活はかなりルーズな面がちらほらと…。
そのうえ周りへの配慮を考えすぎるせいで、助けて欲しい場面でも結局は誰にも頼らず抱え込んでしまう損な性格――
人の心配を素直に受け取ろうともせず、…何より自分の容姿にまったく無頓着ですからね。
そして実際に偽の婚約を結んだものの、意固地を張って突飛な行動に長けていることもよく分かりましたよ。やはり流石ですね、怜葉さんは」
「な、にそれ…っ」
じわり、じわり視界をくもらせる涙に構うより。淡々と告げられたそれらは鮮烈すぎて、真っ黒な眼を見ながらも泣き笑いに変わっていた。
明らかに私の残念なところオンパレードの発言には、もはや怒りどころも見当たらないから。