戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
すると不意に、右腕を掴まれるとそのまま引き上げられて。今もなお填まっている、薬指の指輪を撫でるように触れられた。
「――だからこそ、手を差し伸べたくなったんですかね…まあ、どうでも良いことか。
もうお分かりの通り、両親の冷めた関係を見て育ったので、これまで個人に対して執着とか興味は持たなかったんですがね…。
どうやら俺の身体は、怜葉さんだけ欲して止まないようです――これが精一杯なので、…あとはベットでどうでしょう?」
「う、そ…っ」
瞳いっぱいに溜まった涙で、すぐ近くにある端正な顔さえも揺らいで映らない。
欲して欲してやまなかったのは、こちらの方だと言えない私。やはり人はそう素直になれないようだ。
それも彼はまたお見通しなのか。ようやく身体を起こされた私は、彼の腕の中で同じ目線に向き合わされた。
「怜葉さん――返事は?」
「ひっ…くっ、好きっ、」
「ありがとう」
「うっ、…ん」
ポロポロ零れ落ちる涙を拭いながら齎されたのは、あまりに尊い一言とともに舞い降りた口づけ。
チュッと感触を確かめるように触れられて嬉しいのに、涙のせいでとてもしょっぱい味がして笑えて来た。