戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


「行きましょうか?」


「…はい。あ、待って下さい――
それでは皆さん、今まで本当にお世話になりました!」


すでに準備万端のバッグや花束やらを手にする彗星に促されたものの。最後に周囲に向けて、今までの感謝を込めて深く頭を下げる。


そう、今日でいよいよ私は、高階コーポレーションを退職することになったのだ。


結果的にOLを辞する道を選んだけど。それの後悔や寂しさ以上に、これからの日々がとにかく楽しみで仕方ない。



「お腹の子も含めてお幸せにねー」」

「ありがとう」

「お幸せにー!」」



 * * *



「今度来る時は専務夫人…、いずれ社長夫人か、」

「いやそのフレーズ、耳慣れない。絶対ムリね」

彼の専属運転士の待ち構える、お馴染みのレクサス車へエスコートされて乗り込んだ。


オンとオフで口調の変わるところはこの1年で培ったモノ。…それも今日限りでほぼ不要になるけど。



「さて、検診に間に合うかな、」

「大丈夫よ、あと10分もあるじゃない」

「その根拠なき余裕が命取りだ」

「ムダに心配症は気疲れするよ」

「先が思いやられる…、怜葉さんに似るのは、」


「はいはい、お転婆な子供になるって言いたいんでしょ?」

「フッ、それなら喜んでご所望しますよ?

貴方に似た子供なら、どんなワガママでも受け入れたくなる」


「…それなら、彗星に似た子供はその次ね?」


すべてが仕切り直しとなった私たちの婚約報告は、兄たちの結婚式と同時に行うことにしている。


もちろん同時に、お腹の中で順調に育ち始めたベビーについても報告のは待ち遠し限り。


そう…父と母に会おう、と思えたきっかけはこの子の存在も強くあるのだ――



「怜葉さんのためなら喜んで」


腕を取った私に優しく笑ってくれる、彗星と出会えたことこそ。幸せになるためのターニング・ポイントだから。


新たな命を慈しみつつ、笑顔で生きられる道があれば――たとえ今後、何があってももう大丈夫…。



 【戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?★終】


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