戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】
恨めしい眼差しを送ることも禁止された今、鉄仮面に伏すべきなのか…?
「ちなみに、アナタが私の婚約者だとしても。
一切の干渉はナンセンスです。そもそも私は、アナタに興味を持つことは無いでしょう」
すると呼吸すら響きそうなほど、シンと静まり返った空間で向けられた発言に驚嘆だ。
「…ええ、そうですね。素敵なお考えだと思います。
あいにく私ごときも、貴方様を心配できる余裕や時間は微塵もございませんしね」
ロボット男が吐き出したのは思いきり私を侮蔑した発言だし、コレくらいは許される。
ただでさえ、帯の締め付けは息苦しく、ロングのつけ睫毛で瞬きすら重く感じるのに。
どうして私の方が謙(へりくだ)らなければならない。ああ理不尽すぎる…!
「――流石にアナタは話が早くて助かります。
ちなみに私のことは、彗星(すいせい)で構いません。頼みますよ、怜葉さん?」
「…TPOに応じて呼ばせて頂きます」
そんな私を見事にスルーした男の態度に、フラストレーションは募るばかりだ。
アンタの名前なんか好んで呼ばないわよ――このハレー彗星…!
いや…そうロボット男に名づけるのは、初の周期彗星である天(そら)の方に失礼すぎるわね。
「その笑顔は頂けないですね。
どうやら表情筋が衰えていらっしゃるようだ」
「ふふ…、運動不足ではありませんけど」
それでもプライドからニコリと笑みを返そうとすれば、ピキピキ引き攣った口元。
決してヤツの言う通りに老化ではなく、着物による厚化粧からだと強く思いたい。