戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


だからこそ私は、今まで冷視線から逃げ回るように、今後も地味でヒッソリと暮らすつもりだったのに。


自分の人を見る目の無さが招いた、連帯保証人という名の借金を被ったことで。


私の元を去った彼を断ち切ろうと指輪を外した薬指には、新たなセレブという呪縛がかかって。


ようやく手に入れたフツーだった生活もまた変わり、すでに1週間が経過していた…。



「おーい、奥さま」

「…やめてよ」

同じ部署に所属していて主任の補佐を務める加地(カジ)くんの呼び掛けに、本日二度目の苦言を呈した。


「イイじゃん。何か名前で呼びにくいし」

それだというのに、“もうすぐ専務夫人になるし、立派な奥さまだろ”とまったく聞く耳持たずである。



彼には半ば呆れながらも、この一週間で変化したものといえば。ひとまず周りのやっかみが少しばかり減少したこと。


そして代わりに、加地くんのような寒気を増すギャグを飛ばす同僚が少しばかり増えたことだろうか。


スタイルが一変してヤツ色に染まっただとか、格好が落ち着いたから女性らしくなっただとか言われるものの。


ロボット男と結んだ契約の遂行に、ただ躍起になって、仕方なく忠実に守っているだけだというのに。



今までのスタイルよりも評判がうなぎ登りな結果では、私のセンスが無かったのだろうか?


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